迷子の賢者は遠きナザリックを思う
第3話
<絶望の先の希望>
「サーバーダウンが延期した?」
目の前の時計を見ると0時をすでに1分ほど過ぎている。
馬鹿な、最後の最後にこの体たらくか。
くそ運営だとは思っていたが、まさかこれほどだったとは。
とにかく気を取りなおして何が起こっているのかと切っておいた通信回線をオンにしようとして、コンソールが浮かび上がらない事に気付く。
いや、それどころか、常に表示されているはずの窓すら全て閉じているではないか。
「何が?」
コンソールが使えない以上通信回線をオンにする事はできない。
そこでコンソールを使わない強制アクセスやGMコールを試してみるのだが、その全てが沈黙していた。
まるでシステムそのものから切り離されたように。
「どういうことだ!」
ずっと愛着を持っていたこのナザリックとモモンガと言うキャラクターとの別れを汚されたような気になり、つい声を荒げてしまったのだが、
「どうかなさいましたか? モモンガ様?」
俺はそんな事は些細な事だと気にならなくなるほど唖然とする事になる。
その初めて聞く綺麗な女性の声、それはこの玉座の間に配置されていたNPC、アルベドから発せられた物だったのだから。
「<メッセージ/伝言>もダメか」
一縷の望みを籠めてGMへの直通連絡を試みた。
GMコールを含むシステム関係が全てダメだったのだから、フレンドチャットやギルドチャットは死んでいると考えるのが妥当だろう。
では、魔法である<メッセージ/伝言>なら届くのではないかと考えたのだ。
チャット系は全て無効かもしれない。
でも、魔法ならシステムとは切り離されている物なのだから伝わるのではないかと考えたんだ。
しかしGMからの返答は無かった。
「GMと言う存在自体、この世界にはいないと考えるべきか」
では、フレンドやギルドメンバーは?
すでにないまぶたの裏にある一人の面影が浮かぶ。
自分がこの世界にいる以上、同じくユグドラシルの最後までログアウトしないと言っていたフレイアさんも一緒にこの事象に巻き込まれているはずだと考えた。
だからこそ、一縷の望みをかけてフレイアさんに<メッセージ/伝言>を送る。
ユグドラシルでは相手がログインしていれば呼び出し音があってすぐに解った。
だがこの世界ではそれはシステム扱いのようで、なにか糸が繋がる相手を探しているかのような変な感覚が自分を襲う。
1分、2分、3分。
繋がるような、相手を見つけているような、そんな不確かな魔力感知感覚が伝わってくる。
でも返答がない。
そして有効時間がすぎたのか、繋がることなくそのまま効果が切れた。
そこで念のため、ログインしていなかったほかの39人にも送ってはみたのだが、二度目からは同じ様に糸が探すような感覚はあるものの魔法がなじんだのか1分も掛からずに効果が切れた。
やはり居ないのか?
「負の接触は有効だったのに・・・」
アルベドに触れた時、ユグドラシルのスキルである負の接触は有効だった。
ならば魔法もこの世界でも使えるのではないかと考えて、俺はメッセージを試してみたのだが。
「いやまて、スキルは有効でも魔法は使えないのではないか?」
一瞬、この世界に来たのは自分だけなのでは? と、恐ろしい考えに苛まれたのだけれど、即座にチャット系の機能や魔法自体がこの世界では無効になるのではないかと言う自分にとって都合のいい予想を私はした。
しかし、先程外の様子を見てくるようにと命令したセバスに<メッセージ/伝言>を飛ばしてみたところ、魔法の糸が相手を探してうごめくような感覚の後、
「これはモモンガ様」
通じてしまった。
もう言い訳は通用しない。
フレンドチャットもギルドチャットも、そしてたった今有効だと確認できた<メッセージ/伝言>も、一番この世界に一緒に飛ばされてきた可能性が高いフレイアさんには届かなかった。
「俺は、一人だ・・・」
この世界にただ一人飛ばされてしまったと、俺は確信した。
ユグドラシルでは一人でも寂しくなかった。
もしかすると、ユグドラシルを懐かしく思ったギルメンが気まぐれでログインして来てくれる可能性を夢見ていたから。
現実社会に未練はない。
あの地獄のような世界よりはこの超越者の体とナザリックと言う力とを持った状態の方が、この世界の方が救いがあり生きる為の目標や希望があるのだから。
でも、ただ一つ許容できない事がある。
「もうギルドメンバーたちと同じ時を過ごすと言う望みは、未来永劫かなわぬ夢となってしまったのか」
自分ただ一人がこの世界に隔離されてしまった。
これがサービス終了しただけならば、まだ救いがある。
フレイアさんが約束してくれた通り、新たなゲームで共に冒険する事がかなうのだから。
しかしこの状況になった以上、もうその機会は永遠に失われてしまったのかもしれないのだ。
「すみません、フレイアさん。また遊びましょうと言ってもらえたのに、その約束、果せそうにありません」
最終日、フレイアさんの誘いに乗って行動を共にしていたら。
自らの決断を今更後悔する。
「もう一度、ただもう一度だけでいいから、フレイアさんと話がしたい。そしてもしかなうのならば、あの人と一緒に世界をめぐる機会が欲しい」
ほんの半日前の自分の決断を、もしかしたら一生後悔する事になるかもしれないと突きつけられた俺は、悔やんでも悔やみきれない自分に対する批難を心の中で抱える事となった。
そんな俺に、ある報告が齎された。
そしてその報告により、俺は一生許せなかったであろう自らへの批難を回避する事となる。
「モモンガ様、報告を続けても宜しいでしょうか?」
あまりの絶望に、セバスとメッセージが繋がっているのを失念していた。
自分で命令したのにもかかわらず、これは流石にダメだ。
俺は自分の中の絶望を一時的に端に置き、セバスの報告を受ける事にする。
「それで外の様子は?」
「はい、周辺は草原になっております」
草原だと?
馬鹿な! ナザリックの周辺は湿地帯、毒の沼地に囲まれていたはずだ。
「草原? 毒の沼地ではなく?」
「はい草原です」
と言う事は・・・まさかここは元々ナザリックがあった場所ではないと言うのか!?
ならばもしかすると。
「解った、そのまま周辺に敵対勢力やナザリックに害をなす生き物がいないか調査せよ。そして何事もなければ、そうだな20分ほどで帰って来い。守護者たちを集めておく。そこで報告するのだ」
「畏まりました」
ふむ、ここがナザリックがもとあった位置でないとするとユグドラシルが現実世界になったと言うわけではなさそうだな。
ならば一緒に居なかった者は別々の場所に飛ばされたと考えるのが妥当だろう。
「<メッセージ/伝言>の有効距離がどれほどか解らない、けど」
ユグドラシルでは同じワールドに居ればどれだけ離れていても繋がった。
だけど、ワールドが違えば繋がらなかった。
と言う事は<メッセージ/伝言>は距離が離れすぎれば繋がらないと言う事なのではないか?
そしてこの世界がユグドラシルとは別の世界だと仮定した場合、
「もしかするとフレイアさんはこの世界に来ていないのではなくて<メッセージ/伝言>が届かないほど離れた場所にいるんじゃないのか?」
それならば最初の反応、あの糸が繋がる場所を探そうとしたような感覚にも納得がいく。
きっとフレイアさんはこの世界にいるのだ。
しかしこの魔法が届かないほど遠くに飛ばされたに違いない。
「そう、だからこそ彼女へのメッセージだけは念波の糸が目的の相手に何とか届かせようと時間を掛けた。しかしとどく距離ではなかったから結局切れたんじゃないか? それならば!」
それならば俺がここに居る事を、ナザリックがここにあるということをフレイアさんに気が付いてもらわなければならない。
一人で不安であろうあの人に、帰るべき場所がここにあるという事を教えてあげなければならない。
「ナザリックを、アインズ・ウール・ゴウンの名をこの世界の隅々に届くほど広めなくては! そう、俺を探しているであろう、フレイアさんの耳に届くように」
こうしてモモンガはもう一度仲間と再会する為に、この世界に自分たちの存在を広めることを決意するのであった。
後書き、だよなぁ
解っているとは思いますが一応。
フレイアにモモンガのメッセージが届かなかったのは寝落ちしているからです。
ユグドラシル時代はコール音がしましたが、この世界に転移してからは糸が伸びて相手に繋がるような感覚だとの事だったのでこれ幸いとこの表現をしました。
因みにフレイアがモモンガにメッセージを送らなかった理由も書いておくと、単純に忘れているからです、メッセージの魔法を。
だってフレンドやギルメン、別ギルドと合同で臨時に組んだPTメンバーにはチャット機能があるし、異形種でなおかつ料理人なんて冒険に出ない職持ちなので知らない人とPTを組む事もなかったから、リーダーになってPT参加希望の人にお誘いのメッセージを送るなんてこともなかったので。
便利な魔法なので習得はしているのですが、まったく意識の外にある状態なのです。
近くにNPCでも居れば、連絡用にと思い出したかもしれないですけどね。
次に、これでしばらくメインヒロインであるwモモンガさんの出番はありません。
フレイアは別の人物(原作に出てくる人ですよ)としばらく行動を共にするので。
でも話の裏側では基本モモンガさんは原作通りに動きます。
ただ行動原理が少し違っているので、ほんの少しだけ違う行動をすることもあると思います。
フレイアさんのことを考えているので、残虐性は少し減るかも?
まぁ、基本はナザリックなので敵対者は皆殺しですがw
それでは次回からまたフレイアさんの冒険に戻ります